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【『ノモンハン : 見下ろす神、地を這う神』 第百四回】 [ノモンハン考]

☆・・・では、『ノモンハン :地を這う神々の境地』です。

   ◇   ◇

 第三十七柱 陸軍上等兵 <石尾 眞人>

    「進んで難局を志願」

「伝令!」 「はツ」

 中隊長の声に応じて、すぐさま飛び出すのは、いつも石尾一等兵だつた。

「うむ、では御苦労だが・・・・・・前面の敵、先刻来戦車三両、狙撃兵数百をもつて南方高地に向つて進出の模様あり、以上小隊長に伝令!」 復唱するや否や、石尾一等兵は敢然と稜線の上へとびだした。とたんに、敵戦車の機関銃が猛烈に火をふいて、石尾一等兵のあとを追つてゆく。

「うむ、元気な奴ぢやなあ、弾丸に当らないやうに」

 中隊長は頼もしげにその後姿を見送りながら祈るのだつた。

 それは七月五日、我が全線に亙つて総攻撃が開始され、敵はもうあと一押しでハルハ河の彼方に追ひはらはれるといふ時である。中隊は約八百米の前方に敵陣を睨んで猛攻してゐたが、敵の勢はつねに変化するので、右方の小隊との連絡が何より重要だつた。

 だが、戦車数両をもつて陣地を固めた敵は、稜線の上に一人でも姿を出せば、忽ち機関銃の集中射撃を浴せてくるので、その連絡の任務は九死に一生を覚悟せねばならぬ決死の難事だつた。

 しかも、石尾一等兵はいつも自ら進んで伝令を志願し、許されれば大喜びで敵弾集中地帯にとびだし、敏速かつ確実に任務を果たすのである。

 その昔、戦場に馳驅して矢叫びに胸をどらせた祖父の血が、若い石尾一等兵の全身に今なほ脈うつてゐるのでもあらうか、戦場に来てからの彼は元気百倍したかの如く、どんな困難な仕事にも飛びつくやうに働くので、戦友たちはみんな舌を捲いてゐたのである。

 敵の弾丸もこの元気者は避けて通るかのやうだつた。

 ところが、その翌六日、中隊が長驅して敵の左側背を衝いた時、石尾一等兵も中隊長側で次々と敵を射殺してゐたが、十三時ごろ、つひに敵弾を頭部にうけて、壮烈な戦死をとげたのであつた。

   ◇   ◇

                                         (2009/02/08)
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